第二次世界大戦とリーバイス501





リーバイス501の歴史で
特に有名で人気のある時期の
「大戦モデル」
と言われるものがあります

一般的には1942〜1945年の間に生産されたもののことで
他の年代のものと比べても
かなり特殊で興味深いのが「大戦モデル」なのです

大戦モデルの人気は高く
ヴィンテージの大戦モデルは超高額で取引されるし
大戦モデルをモチーフにしたジーンズは多くの
現代のアパレルブランドが売り出していている人気商品なのです

日本の人々なら説明不要で理解できると思うのですが
戦争とは多かれ少なかれ、色んな意味で極限状態になるものです

それはアメリカも同じです

良い、悪い、は置いといて
そんな極限状態の戦争から生まれるものは
数多くあります




現代では誰もが使う様になったインターネットは元々軍事目的だし
電子レンジや缶詰など
挙げればきりがないほど
多くのジャンルの製品が
軍事目的、戦争のために研究開発された技術なのです

今ではファッションとなっているオシャレな洋服も
ミリタリーウエアのデザインがあまりにも多い

それだけ戦争というものは広範囲に影響力のあるもので
もちろんジーンズにも大きな影響があったのです

前置きが長くなりましたが
今回は
その戦争の影響を受けた501のお話しをしましょう

第二次世界大戦期に作られた
リーバイス 501XXには
ロットナンバー501の前に「S」という文字が付き
「S501XX」と表記されます

このSとは 「sinplited」(簡素化)という意味です

極限状態の戦争中であったアメリカは
物資が不足していた事情から
「W・P・B」(ウォープロダクションボード・戦時製品監督局)が
ありとあらゆる製品に、こと細かく規制をだしており
必要最低限の材料で製品を作る命令を出していた

それにより501もこれまでのものよりも
コストカットを押し付けられることとなり
「簡素化」せざるおえなかったのである

ジーンズはその丈夫さが認められていて
ファティーグ(軍事用作業着)に採用されていて
規制が念入りだったらしい

有名な簡素化されたディティールを挙げていこう

○シンチバック廃止
これは前回のお話しとかぶりますが
国から不要と判断されたのでした
前回お話ししましたが
もともとあまり機能していない部分であり
困る人はほとんどいなかったようです




○スレーキ生地を余った生地で代用
ポケットの袋地のことを
「スレーキ」
というのが
一般化していますが
ジーンズのポケットに使われている
あの白い生地の名称を「スレーキ」と言います

そんなスレーキ生地も
節約すべきと判断されます

他で余ったフランネルやヘリンボーンなどを
スレーキの代用品で使ったりしていました

○リベットの材質変更、使用数の削減
銅製リベットから
鉄製の銅メッキのリベットに変更となる
特に金属は貴重だったのだろう
使用数も減らすように命令され
泣く泣くウォッチポケットのリベットを廃止することになる

鉄製のリベットは錆びやすく
ヴィンテージの大戦モデルは錆びていたりする
興味のない人からすると汚いだけだが
マニアの間ではそれが「味」だということで人気があったりするのである

○フロントボタンのコストダウン
リーバイスのボタンはリーバイスの刻印が入っているオリジナル特注製というのが常識なのだが
この時期は既製の安価な量産品に変更することになる
有名なのは、月桂樹ボタン、ドーナツボタンと言われるボタンである






○アーキュエイトステッチの廃止
今やリーバイスのトレードマークであるアーキュエイトステッチが
系の無駄遣いだと判断され禁止された

だがリーバイスはアーキュエイトステッチを諦めることが出来ず
黄色のペンキでアーキュエイトステッチを描いたのである
このアーキュエイトステッチをペンキで描くことを
「ペンキステッチ」と呼んだりするのだが
「ステッチ」とはそもそも「縫い目」のことなので
個人的に面白い言葉だと感じていて好きである

このペンキステッチには面白いエピソードが色々あります

急にペンキステッチになったため
一部の人はリーバイスの偽物だと思ったらしい
それもそうだろう
糸のアーキュエイトがペンキになってチープに見えただろうし
ウォッチポケットのリベットが打たれていなかったり
いままでの501とは別物に見えるのが普通かもしれません
それほどの節約ぶりだったのです
しかも
戦争中にはジーパンを生産していた熟練の職人が兵隊として駆り出され
人材不足もあって
未熟な職人が作ることも多く
作りや縫製面でも、以前より低レベルな製品が多く流通したのである

もう一つ
面白いエピソードがあります
当然ですがジーンズを作っていたのはリーバイスだけでは無く
皆さんご存知の「LEE」のジーンズも軍事様作業着に採用されていたのですが

不思議な話でLEEのバックポケットのステッチは禁止されなかったのでした

LEEの話も面白いのでまた別の機会にお話ししますが
実は1944年までLEEのバックポケットにはアーキュエイトステッチが入っており
同じ条件でLEEも規制を受けたにもかかわらず
LEEの大戦モデルには
しっかりと糸でアーキュエイトステッチが入っているのです

はっきりしたことは解明されていないのですが
WPBがLEEに甘かったというよりも
作業着でも高級イメージのあったリーバイスに規制を強くすることで
「あのリーバイスもここまで節約しなければいけないほど極限な状態なんだ」
と国民に認知させる
宣伝効果を狙ってのことだったと言われています




なんにしても
初代社長リーバイが考案した
大切なアーキュエイトステッチを満足に入れる事ができないリーバイス社は
さすがにムカついたのだと思います

リーバイスが生んだアーキュエイトステッチなのに
リーバイスはアーキュエイト禁止で
リーバイス以外はOKって・・・
普通に考えたらゲキオコプンプンマルでしょうね笑

1943年にアーキュエイトステッチを商標登録するのですが
商標登録するに至った理由の大きな1つだと私は思っています

そんなエピソード満載なペンキステッチは
ヴィンテージジーンズの中でもなかなか見ることはできません
そもそも大戦モデル自体が3年ほどしか生産されていないし
何十年も前のモノだし
洗濯したり履いて擦れたりすると、ペンキなのですぐ消えちゃうのです
運良く大戦モデルのヴィンテージを見つけたとしても
ペンキは完全に消えている事がほとんどで
たとえ万が一ペンキの残っている個体があったとしても
常人では買う気の失せるプレミア価格になっていることでしょう

最後に大戦モデルの生地のお話をしましょう

WPBはリーバイスのデニム生地も変更するように命令を出しています

丈夫なデニム生地を売りにしているリーバイスに対して
もっと薄手の安い生地に変更するように命令したのです

ですがなにより丈夫さを売りにして
丈夫さに対してどこよりも自信とプライドを持っているいるリーバイスです
この命令にだけはどうしても従いたく無かったのです

リベットを減らしても、ボタンを変えても、戦争で職人がいなくなっても
生地だけはコストダウンさせたく無かったのでしょう

ニューヨークのリーバイス社で働くオスカー・グローブルという優秀な社員が
ワシントンのWPBに、あきれられるほど何度も足を運び
デニム生地のコストダウン命令を撤回させたのです

「生地を薄手のものに変更するのは一見コストダウンに思えるが、実際に労働で使用して、弱い生地ですぐに破れたのでは、逆効果だ」
という理屈で説得に成功し
さらに驚きなことに
デニム生地を13.5ozのものに変更したのである
そう!
薄く軽い生地になるどころか
逆に!!
さらなる厚手の丈夫な生地になったのです

このオスカー・グローブルの働きは
デニムの歴史上ではノーベル賞に匹敵する貢献度合いではないでしょうか

という具合に
以上大戦モデルのお話ししました

大戦モデルは今回お話しした内容だけでなく
さまざまなものがあり
俗に言う「個体差」が大きいです
スレーキも通常通りのスレーキが使われているものもありますし
ボタンも付き方も様々です

興味が出た方はヴィンテージショップで探すのも楽しいと思います

探してもなかなか無いんですけどね笑




今回までずっと
ほぼほぼ
リーバイスのお話をしてきました

私もリーバイスが一番好きなので
次回もリーバイスのお話し!
といきたいところですが

今回少しだけLEEのお話も出てきました
当たり前ですが
リーバイス意外にも偉大なジーンズブランドがあるのです

リーバイスのお話しもまだまだありますが
少しおやすみして
次回は
今回少しだけお話しさせていただいた
「LEE」のお話をしていこうと思います

お楽しみに!